ハートマンのトランク
もう40年以上も前の話になる。
僕は、ハートマンのクラシックなトランクを買った。
ハートマンはアメリカのブランドで、かつては歴代のアメリカ大統領たちも愛用していた。
当時でも、持っている人は少なかったけれど、特別に変わっているとも思われなかった。
今見ると、すっかり古風なデザインだ。
それでも、使い込むほどに愛着が湧いて、旅のたびに、いい相棒になってくれた。

でも、時代は流れる。
便利なキャリーバッグが当たり前になって、
僕のハートマンは、いかにも「20世紀の遺物」になってしまった。
もちろん、タイヤはついていた。
けれど今みたいな伸縮ハンドルなんかじゃない。
カバンの脇から出た太い紐を、後ろに引っぱってコロコロと移動するタイプだった。

その小さなタイヤのせいで、イタリアの石畳では、結局、手に持ったほうが楽だった。
――たぶん、いまの若い人には想像もつかないだろう。

そんなトランク、見たことすらない人がほとんどかもしれない。
ハートマンのキャリーバッグ
それでも僕は、ずっと手放せなかった。
だけど、やがてキャリーバッグに変わり、
「ただの場所取り」になってしまい、泣く泣く処分した。
そのキャリーバッグも、やっぱりハートマン。

進化はしているけれど、今のモデルと比べると、どこか古い。
まず、タイヤの音がやたらとうるさい。
タイヤは2つしかない。混んでる場所だと、ごくたまに誰かがつまずく。
気をつけてはいるんだけど、内心ちょっと申し訳ない。
引っ張るとき、慣れないと自分の足にカバンがガンガン当たる。足に当たらないよう引っ張るコツが有る。
でも、そんな不憫なところも、またかわいい。
国内旅行には、いまもこのカバンを連れていく。
ハートマンのビジネスバッグ
それだけじゃない。
好きが高じて、Hartmannのビジネスバッグまで買ってしまった。
キャリーバッグの取っ手にはめれば、一体化できる仕様で、とってもかっこいいと思ってる。(自己満足かも)

かつては、アメリカ大統領たちも愛用した、由緒あるブランドだった。
頑丈なベルティングレザー、丁寧な縫製、そしてどこか誇らしげな佇まいがあった。
けれど、しばらくして──
材質が落ちてきたことが、素人の僕にもわかるようになった。
そして、やがてサムソナイトに買収されてしまった。
あの頃の輝きは、もうどこにも見当たらない。
古いハリウッド映画に
古いハリウッド映画を観ていて、ときどき画面の隅にHartmannのトランクが映ることがある。
たぶん、誰も気にしていない。
でも僕は、「あ、出た」と思って、ちょっとだけ嬉しくなる。
古い映画で、空冷ビートルを見つけたときと、どこか似ている。
つい巻き戻して、ストップモーションで確かめてしまう。
「やっぱりそうだ」と思って、ちょっと嬉しくなる。
そんなところも、僕の映画の楽しみ方になっている。

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