僕のビートルについていたカーラジオ
もちろん、見るからにそのカーラジオは純正品なんかじゃなかった。
前のオーナーが、なんとか工夫してつけたものだ。
黒い鉄板で、わりと強引に固定されていて、「まあ、これでいいんじゃない?」っていう雰囲気の取り付け方だった。
TEN AT-1110──昭和40年ごろのカーラジオ
スイッチを入れてみる。
ガーガー、ピーピー──雑音の向こうに、微かに何か聞こえるような周波数も、まだ残っている。
でも、ラジオとしてはもうほとんど機能していない。
カーラジオのケース上部には、TEN AT-1110と刻まれていた。
TEN。
たしかに子どもの頃、「富士通テン」という名前を聞いたことがある。
少し昭和の匂いを感じてなつかしい。
このラジオのことが気になって、ふと検索してみた。
すると、当時のパンフレットが出てきた。


そのパンフレットには、”3つのアイデア”が書かれていた。
- 雑音の回り込みをシャットアウト
- 新しい音色
- するどい分離で混信ゼロ
説明を読むほどに、「ほんとうに、そうだったのか?」と首をかしげたくなる。
……夢のようだったラジオも、いまは跡形もない。
頑固親父の修理日記
もうひとつ、見つけた。
「頑固親父の修理日記」というブログ。
ラジオやテレビを、まるで日課のように直しては、それをコツコツと書き続けている。もう何十年も。
その中に、同じTEN AT-1110を修理したという投稿があった。
驚いた。
なんとそこに載っていたのは、今、僕のビートルに実際に付いているラジオ──そのものだったのだ。
黒い鉄板の塗装のは剥がれ具合までまったく同じで、思わず目を疑った。

なぜだか、その姿に懐かしさすら感じてしまった。

このブログを読む限り、あのラジオは昭和40年ごろのものらしい。
黒い鉄板で固定された、富士通テンのAT-1110。
修理の投稿は、2010年、平成で言えば22年、はるか昔のようにも思える。
前のオーナーは、修理に出して、直そうとしていたのだ。
その気持ちが、なんとなくラジオから伝わってくる気がした。
前のオーナーとつながるカーラジオ
それだけのことなんだけど、前のオーナーと、ほんのわずかに、つながったような気がしたからだ。
昭和、平成、そして令和。
ラジオって、たぶん“音を聴くもの”なんだけど、このラジオは
“人と人をつなぐもの”にもなっていた。

TENという名前のそのカーラジオは、
まるで点と点をつなげて、ひとつの線にしてくれるようだった。
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