空冷ビートル誰が作ったのか?
──消された設計者ヨーゼフ・ガンツの物語(後編)
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この画像は Wikimedia Commons のCharles01 氏による作品で、CC BY-SA 4.0 ライセンスのもと使用しています。※ 明るさなどの画像調整を行っています。
── ポルシェに託された“国民車構想”のはじまり
ガンツの構想が消されたのは、彼がユダヤ系だったから──それが最も自然な説明でしょう。
ヒトラーは「国民車」のアイデア自体には価値を見出していました。ただし、その実現をユダヤ人に任せることは、ナチス政権にはできなかったのだと思います。
そして白羽の矢が立ったのが、フェルディナント・ポルシェだったのでしょう。
もっとも、これらはいずれも状況証拠にもとづく推測にすぎません。
「ドイツ国民のための車」をつくれ
1933年5月、ヒトラーはポルシェにこう命じます。
「ドイツ国民が買える、安価で、信頼性のある小型車をつくれ」
彼はこれまで高性能なスポーツカーやレースカーの設計が主で、「大衆車」は未経験。
でも、当時のヒトラーから直々に頼まれたことは、とても栄誉なことだったんだろと推測できます。
ヒトラーの求めた仕様
- 頑丈で長期間大きな修繕を必要とせず、維持費が低廉であること
- 標準的な家族である大人2人と子供3人が乗車可能なこと
- 連続巡航速度100 km/h以上
- 7 Lの燃料で100 kmの走行が可能である。(リッター14.3 km以上)
- 流線型ボディの採用
- 空冷エンジンの採用(ヒトラーの関与があったともされるが、直接指示かどうかは不明)
MEMO: なぜ空冷?
冬の厳しいドイツでは水冷エンジンが凍結しやすく、不凍液も一般的でなかったためです。ヒトラーは実用性から空冷を重視したといわれています。
ポルシェが描いた“ビートルの原型”
ポルシェのプロトタイプは、ガンツが提唱していた「モダンな小型車の理想形」に驚くほど似ていました。
- リアエンジン・リアドライブ(RR)
- 空冷エンジン
- 独立懸架サスペンション
- 空気抵抗の少ない流線型ボディ
「ガンツに作らせるわけにはいかない」──そう考えたヒトラーが、ガンツの『スタンダード・スーペリア』を下敷きにポルシェに開発させたとしても、不思議ではありません。
もちろん、それはあくまで推測ですが。
“国民車”はやがて「KdFワーゲン」に
ポルシェの設計は、「KdFワーゲン」として1938年に完成します。
KdFとは「力による歓び(Kraft durch Freude)」の略で、ナチスが展開した国民運動のスローガンでした。
<1938年に完成したVW38は以下サイトで見ることができます。>

しかし、量産を目前にして第二次世界大戦が勃発し、「国民車」構想は中断されます。
代わって登場したのが、軍用仕様の「キューベルワーゲン」でした。以下の構造はKdFワーゲンと共通しています:
- 前後とも独立懸架のサスペンション
- リアエンジン・リアドライブ(RR)レイアウト
- 空冷式の水平対向4気筒エンジン
- バックボーンフレーム(中央に太い鋼管)

By Darkone – Own work, CC BY-SA 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=209671
このほかにも、Type 60Lと呼ばれるビートル型の車両が、少数ながら軍用や公的機関向けに製造されました。
戦後、ビートルとして蘇る
1945年、敗戦によりKdF工場も破壊されますが、イギリス軍の支援で再建。
ここから「フォルクスワーゲン・タイプ1」、のちのビートルとして生産が再開されます。
<戦後生産開始時のビートルは以下サイトで見ることができます。>

誰が「ビートルの父」なのか?
戦後、ビートルの設計者として名を残したのはポルシェでした。
しかし、その陰にはガンツの構想と先行モデルの存在があります。
長らく忘れられていたガンツですが、近年ようやく再評価の動きが生まれました。
ヨーゼフ・ガンツ、再評価の時代へ──本と映画で甦る姿
2011年、彼の業績を伝える書籍が出版され、2019年にはドキュメンタリー映画も制作されました。
タイトルは『Ganz: How I Lost My Beetle』
彼の構想が、ビートルの誕生に少なからぬ影響を与えたのは間違いないでしょう。
ガンツは消されたのではなく、時代に埋もれていただけだった。
本と映画は、その埋もれた真実を、現代の私たちの前に再び引き出してくれました。
Ganzに関する動画
🎬 映画:『Ganz: How I Lost My Beetle』
2時間近くありますが。。。。
The Jewish Engineer Behind Hitler’s Volkswagen

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